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大阪高等裁判所 平成4年(ネ)771号 判決 1993年2月26日

主文

原判決を取り消す。

被控訴人が、控訴人の経営する聖丘カントリー倶楽部について、同倶楽部理事会並びに控訴人取締役会の入会承認を停止条件とする個人正会員としての地位を有することを確認する。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、同4の事実を認めることができ、これを履すに足りる証拠はない。

二  抗弁1の事実は当事者間に争いがない。

被控訴人は、長男竜彦が平成二年一一月二〇日控訴人宛てに竜一の死亡により喪中である旨のはがきを送つた旨主張し、<証拠略>によれば、右主張のはがきが同日控訴人宛てに発送されたことを認めることができ、これによればそのころ右はがきが控訴人に到達したものと推認できる。しかしながら、右甲第一四号証によれば、右はがきは、差出人は藤木精密工業株式会社であり、その文面は竜一が死亡したことを理由に年末年始の挨拶を遠慮するというものであつて、これをもつて竜一の相続人が本件規則の届出をしたということができないのは明らかである。

三  被控訴人が平成三年四月五日に控訴人に対して電話で名義書換を申し出たことは当事者間に争いがない。右申出は、竜一の遺産分割が成立して四日後であるが、その死亡からは八か月を経過しているので、その効力が検討されなければならない。

ところで、いわゆるゴルフ会員権を有する関係は契約上の関係であり、その内容は契約によつて定まるものであり、その相続による承継の可否も契約によつて定まるものである。この理は本件会員権に関しても同様であるところ、本件規則については、その内容について竜一も合意して制定されたもので、本件会員権の契約関係の内容をなすものであり、その承継人たる被控訴人についても効力を有するものである。

そこで、本件規則における会員資格承継の届出期間について検討を加えるに、本件規則は、会員が死亡したときは、相続人は六か月以内に賛助金の返還手続をとるか、相続人の一人に名義書換手続をとるか、第三者に会員資格を譲渡するかを選択して聖丘カントリー倶楽部理事長に届け出なければならないとし、右手続がとられないときは、賛助金返還により会員資格を失う旨定めているところ、控訴人と同倶楽部会員との間で右規則についての合意がされた際に、その双方の代理人間で、右六か月の起算点は民法の原則どおり相続の開始を知つたときとすることが確認されている。そこで、その確認事項を前提に解釈すれば、相続人は相続が開始したことを知つたときから六か月以内に、その名義書換等を選択して控訴人に届け出ることを要し、届け出ないときは、会員資格を失うことになる。これは、単独相続の場合には、通常、相続人は相続開始を知ることにより、その権利を行使することが可能になるから問題はない。しかし、共同相続の場合には、速やかに遺産分割の合意が成立すれば問題はなかろうが、そうでない場合には問題が多い。遺産分割の協議が整わない場合、家庭裁判所における調停、審判によつて分割するよりほかないが、相続人の確定にさえ、多くは三か月を要するものであり、当事者の協議によつて分割ができない場合に、相続開始から六か月以内に遺産分割が成立することは多くの場合極めて困難であるといわなければならない。そして、ゴルフ会員たる地位について共同相続が開始した場合、右地位については一応、準共有関係が成立するといいうるが、本件規則が選択肢として掲げる方法のうち、賛助金の返還及び第三者への譲渡はいずれも処分行為であつて、各相続人が単独でなしうるものではないし、相続人の一人に名義を書き換えることはもちろん、右いずれの選択肢についても相続人間で合意が整わないかぎり遺産分割前に選択することは困難である。遺産分割前に共有名義に書き換えることは、契約上できないものと解されるし、相続が開始した旨の通知は各相続人がなしうるであろうが、右通知をしたからといつて、これによつて期間が延長されるというような効力はなく、無意味である。また、いわゆるゴルフ会員権について、本件規則のように相続による承継に期間による制限を加えていることは、さほど多くないと認められ、相続人については、そのような制限があることを知つていることは少ないといわざるを得ない。このようにみてくれば、共同相続において、相続人間で早期に協議が整わない場合には、相続人がこれを承継したり、他に譲渡することは不可能となり、賛助金の返還を余儀なくされるのであるが、遺産分割協議が早期に整わないことは珍しいことではなく、会員権の価額が賛助金の数十倍の取引価格(弁論の全趣旨によれば、三〇〇〇万円を超える。)を有することからすると、これは相続人にとつて著しく酷と言わなければならない。他方、控訴人は、遺産分割が済むまで会員権の行方が宙に浮くといつた事後処理上耐えられない事態となると主張するが、会員の死亡後その承継等の手続が早期にとられなかつたからといつて、会員権の利用関係や年会費の支払等に、これといつた混乱を生じることはないと考えられ、遺産分割成立までの会員権の相続による承継手続を待つことによつて、その主張のような耐えられない事態が生じるとは認められない。

以上を総合して判断すると、本件規則の一項にいう「相続人」は、本件会員権資格を単独で承継した相続人の意味であると解するのが相当であり、このように解しても、文言上特に不整合は生じない。前記代理人の合意は、単独相続の場合などの通常の場合についての確認とみるのが相当である。

してみれば、被控訴人の平成三年四月五日の名義書換請求は、本件規則による選択の届出ということができ、聖丘カントリー倶楽部では、相続による承継について、その理事会及び控訴人取締役会の承認を停止条件としているので、被控訴人は、聖丘カントリー倶楽部理事会及び控訴人取締役会の承認を停止条件とする右倶楽部の会員たる地位を取得したものというべきである。

四  以上によれば、被控訴人の当審における請求は理由があるからこれを認容することとし、原審における訴えは交換的に変更されたことにより取り下げられたものであるから、これに対する原判決は取り消すこととし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳沢千昭 裁判官 松本哲泓 裁判官 竹中邦夫)

《当事者》

控訴人 株式会社光丘

右代表者代表取締役 市來政家

右訴訟代理人弁護士 山本寅之助 芝 康司 森本輝男 藤井 勲 山本彼一郎 泉 薫 阿部清司 橋本真爾 出口みどり

被控訴人 藤木祥弘

右訴訟代理人弁護士 阪上 健 上原洋允 水田利裕 沢田 隆 小杉茂雄 山下 誠 竹橋正明 黒瀬英昭

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